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横浜地方裁判所 昭和49年(ワ)1809号 判決

原告

山本一郎

原告

山本花子

右訴訟代理人

中村文也

外三名

被告

吉岡工業株式会社

右代表者

吉岡信次郎

右訴訟代理人

林忠康

外二名

主文

被告は原告らに対し、各金五、二四五、四五一円及びこれに対する昭和四九年七月九日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因について次のとおり陳述した。

一、原告らは、訴外亡山本正雄の両親である。右訴外山本正雄が昭和四九年七月九日被告に責任のある横浜市戸塚区深谷町一、〇六七番地埋立地(本件土地という)の水溜りで、死亡したため、原告らは右同日訴外正雄の権利義務を相続した。

二、被告は砂利採取等を目的とする会社であり、訴外有限会社八組(八組という)は残土処理、残土埋立等を目的とする会社である。

被告は昭和四九年六月頃本件土地所有者である訴外小宮重治との間に、田であつた本件土地に河川改修により余つた土砂を捨てて埋立てをなし、本件土地を畑として利用出来る状態に整地する旨を約した。

そして、右頃被告吉岡工業は下請会社の八組との間に八組において、実際に本件土地に右河川土砂を捨てて埋立て本件土地を畑として利用出来る状態に整地工事をなす旨を約した。

三、そこで、八組は本件土地を埋立てたが、昭和四九年七月初め頃、本件土地に横9.5メートル、縦5.5メートル、深さ1.5メートル余りの穴を堀つた。同月四日から六日頃まで多量の降雨があり、同月七日も小雨の状態であつた。このため、八組が本件土地に堀つた前記の穴に水が溜り、大きな池の如き状態となつた。原告等の長男正雄は幼稚園から帰宅したあと友達と右水溜り付近で遊んでいるうち、足を滑らせて水中に落ち、このため水死したものである。

尚本件土地は公道に接する場所にあり、埋立により公道と同程度の高さとなつているにも拘らず、八組は人の立入り禁止の表示も危険防止の柵も設置しておらず、誰でも容易に立ち入れる状態であつた。又使用者である八組に対し何らの注意も監督もしていない。

八組が何故前記水溜りとなるような巨大な穴を堀つたか明らかではないが、被告が訴外小宮重治に語つたところによると、埋立中軟い土にブルドーザーが落ち込んだのでこれを引出すために堀つた穴であるという。

しかし訴外小宮が事故後本件土地を検分したところ、ブルドーザーが右水溜りから出た跡がなく、むしろ約束の河川土砂以外のコンクリート破片等他の残土を下に埋めるために堀つた穴と考えられる。

四、右死亡事故により、訴外亡山本正雄及び原告等の蒙つた損害は左の通りである。

(一)  逸失利益

金一二、九九七、三六八円

訴外山本正雄は死亡時満四歳の児童であつたが、今後一八歳から六七歳まで就労可能であるから、昭和四八年度労働者平均賃金一ケ月金一二二、五四五円(労働省統計情報部編毎月勤労統計要覧・毎月勤労統計調査総合報告書昭和四九年版による)に基づき、生活費五割を控除し、ホフマン式により中間利息を控除した金額である。

122,545×12×0.5×17,677

=12,997,368(円)

(二)  慰謝料金

四、〇〇〇、〇〇〇円

本件事故により原告等はたつた一人きりの子供を突然失つた。これにより原告等が蒙つた精神的損害の慰謝料として原告一人宛金二、〇〇〇、〇〇〇円の合計金四、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(三)  葬儀費用 金四九三、五三四円

(四)  弁護士費用

金五〇〇、〇〇〇円

原告等は被告が任意に損害賠償の支払に応じないのでやむなく弁護士中村文也、同伊藤正一、同吉川晋平、同長谷川武雄に本件訴訟の提起と追行を委任した。原告らが右代理人らに支払う弁護士費用のうち、被告に対して損害賠償を請求しうべきものは各自金二五〇、〇〇〇円、合計金五〇〇、〇〇〇円が相当である。

以上(一)乃至(四)合計金一七、九九〇、九〇二円也。

(五)  右損害額のうち、原告らは本件土地所有者である訴外小宮重治から昭和四九年一一月一四日金七、五〇〇、〇〇〇円の損害賠償の支払いを受けた。よつて原告らはその蒙つた損害合計金一七、九九〇、九〇二円から右七、五〇〇、〇〇〇円を控除した金一〇、四九〇、九〇二円の二分の一である金五、二四五、四五一円の損害賠償請求権をそれぞれ有する。

五、よつて原告らは被告に対して民法七一五条の使用者責任にもとづき、各金五、二四五、四五一円宛及びこれに対する本件事故の日である昭和四九年七月九日から支払い済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める次第である。〈以下、省略〉

理由

一訴外亡山本正雄が、原告ら主張の日時場所で死亡したことは当事者間に争いがない。

二〈証拠〉によると、原告らは訴外亡山本正雄の両親であり、同人の死亡によつて法定相続分にしたがつて相続をしたこと、昭和四九年四月頃、被告は八組に対して、河川改修によつて余つた土砂で本件土地の埋立をする工事を請負わせ、八組は約旨に従つて工事を行い、同年五月二六日これを完了した。そして、右請負工事終了後は、被告が人夫を使用して残工事に当つていたが、その中には、さきに八組が堀つた横9.5メートル、縦5.5メートル、深さ1.5メートル余りの大穴を埋める仕事も含まれていた。ところが、折からの多量の降雨のためにこれに水が溜り大きな池のような状態になつた。同年七月九日原告らの長男訴外亡山本正雄が幼稚園から帰宅したあと、友達と右水溜り付近で遊んでいるうちに足をすべらせて水中に落ち、水死したこと(右日時、場所で死亡したことについては当事者間に争いがない)。本件土地が近くの団地、住宅地に通ずる公道に接する場所にあり、誰でも容易に立ち入れる状態にあつたにもかかわらず、立入禁止の表示も危険防止の柵も設置していなかつたことが認められる。

三近くに団地、住宅地があつて、誰でも容易に立ち入れる状態にある埋立地に、大穴に水が溜つているような場合には、子供が水溜りに転落する危険が容易に予想できるところであるから、工事担当者は危険防止の柵を設置して事故を未然に防止する注意義務がある。ところが、右認定事実によると、工事担当者は右注意義務を怠り柵を設置しなかつたのであるからこれに過失責任があること明白である。

四そうすると、使用者である被告は民法第七一五条によつて原告らに対する賠償の責に任じなければならない。

五損害

訴外亡山本正雄の逸失利益、原告らの慰藉料、葬儀費用、弁護士費用の額は、原告らが請求するとおり認めるのが相当であるので、その合計額は金一七、九九〇、九〇二円となる。

ところが、原告らは訴外小宮重治から金七、五〇〇、〇〇〇円の損害賠償の支払を受けているのでこれを差引くと、残額は金一〇、四九〇、九〇二円である。そして、原告らは各自その二分の一の請求権を有するのであるから、それぞれ金五、二四五、四五一円を請求することができるものと言わなければならない。

六よつて、被告は原告らに対して各金五、二四五、四五一円およびこれに対する本件事故のあつた昭和四九年七月九日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。 (石藤太郎)

第一目録〈略〉

第二目録〈略〉

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